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2012年8月5日 19:06:38

タイトル

案山子とノーラの不思議旅行


第一話「案山子と赤い服の女性とそれまでのあらすじ」


ラドハリア領、水田村。

そこで二人の異質な組み合わせの旅行記が、再び始まろうとしていた。
一人は、案山子の姿形をした一応性別男。名を「ルドルフ」という。
もう一人は、赤い服を着た肌の色が白い見目麗しい女性。名を「ノーラ」という。
ルドルフは、もともと、ここ水田村で、田んぼの案山子をしていたが、
魔法使いの使いの妖精の粉をヒトフリ浴びて、動けるしゃべる案山子へと変化した。
旅をして赤い服の少女ノーラと竜神の末裔の大蛙ディノと出会い、色々あり、
案山子を動けるようにした東の魔法使いに会いに水田村に戻る。
しかし、妖精がすすり泣く中、魔法使いは西の魔女に
石に変えられていた。
ディノの姿を蛙に変えた西の魔女を倒すため、
異世界の魔法使いマティスの下でノーラとディノは正式な魔法使いになるべく、
修行をしている最中、ルドルフは、元の動かない案山子に戻ってしまう。
ノーラは、案山子をまた動けるようにするという新たな目標を持ち、
修行に励み、ディノとともに見事、西の魔女を懲らしめたのだった。
大蛙ディノは、元の姿、竜に戻り、
ノーラは、魔女から東の魔法使いの石化を解く方法を聞きだし、
水田村の近くの山の東の魔法使いの住処に行き、
ようやく石化を解くのだった。
そして月日は経ち、ノーラは見目麗しい大人の女性へと成長し、
長い眠りから愛すべき親友、案山子のルドルフを、
魔法の実験の成果で目覚めさせ、
また竹と布と藁で出来た体を動けるように変化させる。
代償として手にアザを作って。
そして、案山子のルドルフと赤い服の女性ノーラの再出発。
この物語は、その旅路の記録である。


第二話「再出発」


案山子のルドルフと赤い服の女性ノーラ。
二人は、今ラドハリア領水田村から南下中である。
少し重い旅行カバンを持っているノーラ。案山子は手ぶらで楽チン。
「ねぇ、ちょっと、荷物持ってくれない?ルドリー。」
とノーラが少し弱音を吐く。しかしルドルフは、
「それなら、魔法で運べば良いのではないか?」
と答える。うーん、と少し悩み、ノーラは答える。
「魔法を使うのにも限界値ってものがあるの。回復する方法はあるにはあるけど、薬は高いから。自然回復を待つのが一般的ね」
「だから、何であるか?」
疑問を投げかける案山子のルドルフ。
「節約したいのよ。いざって時のために!ふぅ」
我慢できずに、近くの手ごろな岩に座り、地面にカバンを置くノーラ。やはり重いのか。
「仕方ないであるな。」
ルドルフは、ノーラの旅行カバンを、ひょいと持つ。
これから南の山道。早く南下して街に着かないと今日は野宿になってしまう。夏だから、蚊が大量に居てノーラにはまずいだろう。
「先を急ぐである。さぁノーラ」
「ありがと」
ノーラは腰を上げ、再び歩き出す。
山の中を歩いている二人。しばらくすると、急に、草地の地面が波打ちだす。
「なっ何!?」
ノーラは思わず尻餅をつき、草地の波に体を持っていかれる。
続いてルドルフも。
気付けば、山の入り口まで戻されてしまった。なんとも厄介なトラップだ。
「これは・・・魔法ね。誰かが山への侵入者を阻んでるんだ」
ノーラは、考え込む。しばらく待って、ルドルフはノーラに聞く。
「どうしたら、山を進めるであるか?」
ノーラは、あたりを見回す。
「どこかに、魔法文字ルーンが刻まれているはず。進入者を押し戻す奴が・・・あった。」
木の幹に文字が書かれていた。それとその近くに魔方陣も小さく。
「これを解くには、スペルブレイカー(呪文破壊)を使わないといけないけど、あー。魔力が勿体無いわ・・・」
頭をかくノーラ。
「背に腹は変えられないである!!」
鼻息荒く説得するルドルフ。
「仕方ない・・・カバン貸してルドリー。」
ノーラはカバンから石を取り出した。鈍い光を放っている。
「これは、前暇な時にストックしといた私の魔力の結晶石、これを・・・」
木の幹に魔力の結晶石を押し当て、呪文を唱えるノーラ。すると、結晶石が弾け、木に刻まれたルーンと魔方陣が消滅する。
「ふぅ、勿体無いけどコレでいいか。進めるわよルドリー」
「うむ、行くである!!!」
旅行カバンを持つルドルフ。ノーラは、しばらく辺りを警戒しながら歩いていたが、誰も怪しい奴はいなかった。
それでも嫌な予感が拭えないノーラ。
「考えすぎだと良いけどね」
「何であるか?ノーラ」
ううんと首をふるノーラ。先を急ぐ。
数時間歩いて、山を降り、街が見えてきた。


第三話「ラドハリア城城下町」


案山子のルドルフと赤い服の魔女ノーラは、山を越え、
ラドハリア領の首都ラドハリア城の城下町にたどり着いた。
水田村など各地から年貢を取り、至福を肥やす領主ジョージ・ラドハリア三世が住む城が遠巻きに見える。
ノーラの生まれ故郷もかなりの大都市だったが、
そこの領レイデンの領主アトノス・レイデン七世は民と共に農作業に励む、立派な領主だった。
そして、ラドハリア城城下町でルドルフとノーラは、今日止まる宿を探す。
ついでに旅の資金を稼ぐための仕事がないか情報を聞ける場所が良い。
ノーラは、しばらく山歩きなどの激しい運動をしていなかったので、くたくただ。
早いとこ宿に行って美味しいハーブティーとお菓子を食べたいといったところ。
ルドルフは、案山子なので食べ物飲み物は特に必要ないが、
いつまでもボロボロの布を纏っているのもセンスないわとノーラに苦言を言われ、しかたなく服を買う事にする。
宿を探しながら服屋を通りすがりに見つけ、値段を見るが、さすが首都と言うべきか、値段が一桁違う。高い。
ルドルフは、気に入った服を見つけるが、値札を見て止めてしまう。
ノーラが貯めたお金を使ってこんな高い服を買うなんて無理である、と。
しかし、ノーラは、次の瞬間、ためらいなくその服を買った。
「さぁ、着替えてルドルフ。ファッションくらい楽しまなきゃ」
「ノーラ・・・いいのか?・・・」
笑顔のノーラに少し気が引けながらも、袖に腕を通す。
かなり上等の生地だ。藁と竹の体が引き締まる感じがしたルドルフ。
そうして、しばらく歩いてるうちに、宿を見つける。
赤い帽子の黒猫亭という看板がついている。赤はノーラの好きな色。黒猫は魔女にとって縁起が良いシンボルマーク。決まりだ。
ノーラは、意気揚々と、宿の扉を開く。ドアについた小さい金がカランカランと鳴る。
しかし、中は、誰もが寝静まっているかのごとく静かだ。
辺りを見回すが、客らしい存在は居ない。
カウンターには、頭を抱えた宿の店主らしき人物が居る。景気が悪いのか、顔色も青ざめている。
ノーラは、恐る恐る主に話しかける。
カウンターに座っていた主はため息を一つつくと、「いらっしゃい・・・」と景気の悪い応対をする。重症のようだ。
ノーラは更に聞く事にする。
「何かあったんですか?お顔の色が優れない様子ですが。」
店主は答えるのもだるそうな弱々しい勢いで話す。
「・・・娘が山に住む魔術師にさらわれたんだ・・・はぁ。」
重い腰を上げて、主はノーラとルドルフを客室に招く。
「じゃあ、その娘さんを魔術師から助けたら報酬くださるかしら?」
ノーラのその言葉に、店主はじろじろ上から下までノーラを観察し、またため息をつく。
「はぁ・・・あんたじゃ魔術師に勝てるわけないさ・・・」
「これでも、魔女よ」
ノーラは、呪文を唱え、指先からローソクの火程度の炎を出す。
「その程度じゃ・・・」
さらに、ノーラは、呪文を付け足す。
すると、ローソクの火程度だったものが、空中で火の海となり消える。
店主の髭が少しこげた。やりすぎたか。
しかし、店主は喜ぶ。
「ほっほーうっ、なんてスゴイ魔法だ!!!お嬢さん名前は?」
「ノーラ。こっちは、案山子のルドルフ」
ルドルフは、服を新調して心軽く上機嫌だ。宿備え付けの姿見の鏡を見て悦に浸っている。
こうして、二人は、店主に飯をご馳走してもらい、話を聞く事になる。
山に住む魔術師のおどろおどろしい噂話を。


第四話「魔術師の噂」


店主は話し出す・・・。
北の山に住む魔術師。名前をギリアムという。
ギリアムは、もう十年近く、一人で山の奥に居を構えせいかつしているようだ。ペットに老犬を飼っている。
毎日、日課で老犬の散歩を魔法人形に任せ、自分は家に引きこもっているらしい。
夜な夜な奇声の様な念仏が、山の近くに住むものが聞くという。
何か、魔術の実験をしているのではないか。
近頃、近くの住民が姿を消すケースが増えている。
それも若い女性ばかり。
おそらく、奇妙な念仏は、魔術の人体実験の準備で、女性達は物言わぬくぐつ人形と化しているに違いない。
身の回りの世話をさせ、奇妙なハーレムを作っている・・・。
いつか、この街に、魔法人形と共に軍隊を作り攻めてくるのかもしれない。
城の者に、事件の事を話しても右から左。話をまったく聞いてくれず。
娘達を失った住民達は、一致団結して魔術師の家に向かうが、ソレを見越してか、変な魔法で山から追い出されてしまう。
なすすべなく今に至る・・・。
話は、そんなところで終った。

ノーラは、少し寒気を覚えた。
案山子であるルドルフは誘拐される心配も無いから、他人事ではあるが、
ノーラが誘拐されたらと思うと大変である。
ノーラとルドルフは、宿の店主の話を聞き終え、店主の娘を助ける算段に入ろうと荷物を開ける。
中には、魔法結晶の石が十個。魔術刻印が施された魔力強化の杖が一振り。古い魔術書が一冊。
それから、ノーラの着替えが何着か。お菓子の包みも非常食として入っている。
「魔術師と魔法人形相手には、そんなに装備品は必要ないかもしれないけど、念には念を入れておきましょう。」
ノーラは、杖と魔法結晶を三個取り出し、カバンを閉める。
ルドルフは、店主に武器を貰う。昔店主が、剣士を目指していたときに購入したらしい古い剣だが、
挫折して商売人になったらしく、もう使わないのだそうだ。裾をたくし上げ二の腕の古傷を見せられる。
ぞっとするルドルフ。これでは剣を振えないのもうなずける。
剣を試しに振ってみるルドルフ。初めてとは思えない剣さばきに、店主とノーラから感嘆の声が漏れる。
準備は万端整った。
夜が明けてから出発することにする。
敵がくぐつを使うなら、夜はマズイ。
慎重に慎重を重ねて、夜明けを待つ。

東の空から朝日が昇る。
店主に見送られ、ノーラとルドルフは魔術師の元に向かう。
しかし、着いた先の魔術師の住むと言われる北の住処には、人の気配がない。
住処を調べるノーラ。
高価そうなカーペットの下に扉を発見する。
扉を開けると、木の階段があり、二人は降り、中の空洞を進む。
進んだ先には、牢獄のような格子がある部屋が。
いったい、ここはどこなのか。ノーラとルドルフは、その薄暗い牢獄から、鍵を開け出る。
しばらくすると、登る階段を発見する。さっきとは違い石畳の階段で、なにやら高価そうな彫刻が施されている。
恐る恐る進む。
そして、階段の上の方から遠くに女性の悲鳴が聞こえ出す。


第五話「悲鳴の理由」


ルドルフとノーラは石畳の階段を、足音が鳴らないようにゆっくりと慎重に歩を進めた。
階上では、悲鳴が起きている。あきらかに危険の臭いがする。いったい、何が行われているのだろうか。
悲鳴は鳴り止まない。石に反響してそこら中から女性が悲鳴を上げているように錯覚する。残酷な拷問でも受けているのだろうか。何のために?
ルドルフとノーラは息を呑む。地下空洞の生ぬるくじめじめした空気が頬を撫でる。階段の上、
天井にある扉を、ノーラに諭されてルドルフはゆっくり開けた。物が扉の上に置いてなかったのが幸いした。
扉を開けるとそこは暗い部屋だった。横の部屋から、薄く光が差し込んでいる。悲鳴はどうやらそこから漏れていたようだ。
女性の無残な姿を想像する二人。背筋が凍るように気分が固くなる。
扉の鍵穴から中を覗こうとするノーラ。しかし、物語のようにはいかない。
光が見えるくらいで、中の様子は確認できない。不便なものである。
仕方がないので、慎重に扉を開け、中の様子を見る事にするノーラ。
呪文か何かが用心のため、かけられていないか探る呪文を一応かけて置く。
指で宙に紋章を描き、小さな声で、サーチ・スペル・トレースズ・アット・ワンス・・・とつぶやく。
分からないくらい、うっすら扉が光を放ち、呪文がかかってない事を確認する。
扉を少しだけ開けるノーラ。見つからないように慎重に慎重を重ねて、ドラノブをひねる。
中を覗くと、まず、所々破れた給仕服を着た女性が鎖に繋がれ、壁から辛そうな面持ちでぐったり垂れ下がっているのが見えた。
その女性に近付く男が一人。何やら悪趣味なくらい光っている金が散りばめられた高価そうな服を着た男が、
持ち手がこれまた無闇に装飾されたライオンの頭が彫られた長細い革のムチを持っている。
そのムチで、ひっきりなしに女性を叩いていたのだろう。むごい事をする事を楽しんでるような笑顔を浮かべたいやらしい男である。
ノーラはムカムカと怒りを覚え始める。よく見ると、まわりに同じように、鎖につながれた女性が、垂れ下がって、生まれたての小鹿のように脚を震えさせている。
これから自分も同じように責められ続けるのだと、表情は強張って涙目だ。
その男に、別の男が声をかける。その男は、魔術師がいかにも着そうな丈の長い薄茶色のローブを着て、文様があしらったフードを目深に被っている。
「陛下、そろそろ、会議の時間ではないかと思いますが。いかが致しましょうか。」
たぶん、あれがギリアムだ。ギリアムは、陛下という男に媚びへつらっている。どうやら、どこかの貴族のようだ。
(まさか・・・ラドハリアの領主?・・・)
ノーラはジョージ・ラドハリア三世の自画像を見た事がある。
かなり男前に描かれていたが、現実はもう少し不細工に違いないと見積もっていたのではあるが、この男がジョージだとしたら、かなり醜いブ男である。
そのせいか、嫁に来ようとする隣国の皇女もいない。
だからといって、腹いせに女性を捕まえてこんな風にいたぶっていては救いようのない馬鹿としか言い様がない。
なおも、ムチで打ち続ける領主。女性は泣いている。もう、悲鳴を出す元気もなくなってきたのだろう。
ノーラは我慢出来ずに飛び出そうとしたが、先に
「許せないである!!!!!!!!」
案山子のルドルフがドアを勢いよく開けて飛び出した。
領主に向かって、剣を突き立てるルドルフ。
ギリアムが、動こうとするのを言葉で制するルドルフ。
「おかしな真似をしたら、この男の首を即座にはねるであるッ!!!!」
先手必勝とはこの事であるのだろう。
ルドルフは、ノーラに、囚われている女性達を解放するように促す。
ノーラ、鎖の鍵をアンロック・ザ・キーと唱えて開錠する。
女性達が、けが人に肩貸しながら、一斉に逃げる。
「案山子の剣士に女の魔法使い・・・なんたる組み合わせ」
ジョージは、使えない魔術師に落胆しながら項垂れる。
「こんなことをして、ただで済むと思うでないぞ・・・」
ジョージは、二人に敵意を向ける。
「望むところよ」
へんっとノーラが言葉を返す。
魔術師の口を縛り、二人の罪人の両手両足を鎖で繋ぎ、その場を後にする案山子と赤い服の女性。
一件落着・・・と後々酷い事になりそうだが、一応はこれでよしとする二人であった。


第六話「一件落着」


ルドルフとノーラは、事が済んだので、早々に宿に戻った。
店主は、娘が帰ってきてとても喜んでいる。涙と鼻水で顔中が分け分からない状況だ。
娘さんが、ルドルフとノーラにお礼を言う。小鳥のようにかわいらしい声で丁寧にお辞儀をしながら。ルドルフとノーラ、つられてお辞儀する。
人に感謝されるのに慣れてない二人だが、悪い気はしなかった。
そして、感謝の印、料理が運ばれてくる。
ノーラしか食べれないが、ルドルフは、嬉しそうに料理を平らげるノーラを見るのがわりと好きなので、
見ているだけでお腹一杯といったところだ。
それでも、と、店の主人は、新しい藁を用意して、ルドルフの体を満遍なく職人に補強させ、
案山子のルドルフは正に新生されたかのように活力に満ち満ちていた。
新しい細胞を手に入れる食事というのは、こういう感じなのだろうかとルドルフは満足を全身で感じている。
「体が重くなったんじゃない?」とノーラに少し心配されたが、そんな事はない。
魔法の力も、新しい体に馴染んで、まるで筋力が今まで以上に備わったような状況だ。
今なら巨人をも一突きで倒せるかもしれないと本気で思うルドルフ。あきれるノーラ。
祝杯の場は、丸一日続き、瞬く間に次の日の朝。
寝癖を整えながら、次に行く目的地を地図を見ながら決めるノーラ。
これから、さらに南下していくとたどり着くのは、妖精族が住むと噂される森の都シラード。
何か魔法に使える薬を調達して、一商売出来るかも知れないと少し期待しているらしい。
旅の資金は多いに越した事はないというノーラに、ルドルフは、昔のように食料を狩りなどで手に入れれば必要ないのでは?と言われる。
「もう二十五よ?いい大人の女性が野蛮人みたいに着の身着のまま狩猟生活なんて笑われちゃうわよ……あの頃はホントどうかしてたわ。
栄養のバランスも悪いから美容にも良くないし……ブツブツ」
なにやら大人になったノーラは野性味をなくしてしまったようで、少し寂しいルドルフであった。
宿の朝食「チョコレートコロネ。新鮮野菜のチーズフォンデュ」の二品目を美味しく頂いたノーラ、
出発するため会計を済まそうとするが、
宿の店主にタダでいいですよお客さん!!恩人からお代は取れませんぜと手を横にぶんぶん振られノーラはお礼を言った。
そして出発。
案山子のルドルフは、ひょいと旅行カバンを持つ。力がみなぎっているらしい。その優しさが正直気持ち悪い。が楽だし黙っておこうというノーラさん。
ラドハリアの領主がそろそろ部下に助けられているかもしれない。
さっさと立ち去るのが得策だろう。
南の城門を抜け、少し急ぎ足気味で、ルドルフとノーラは移動する。
地図によるとしばらく平地で、高い草木は、まばらにある程度らしい。
ある程度歩いたところで、歩調を緩やかにする。いざという時バテバテだと考えも廻らないだろうという理由から。
日長一日歩いたが周りは平地。横に川が流れているという地形の変化がある程度。森の都シラードまでは、まだ時間にして三日はかかる。
それまでは野宿するしかない。
ノーラは、嫌っていたわりにあっさり狩猟生活に入る。
背に腹は変えられない。状況によっては仕方ないのよと言い訳して。
それでも、魔法を使ってスマートに獲物を狩る。
竜神の末裔のディノに教わったという遠くの海から魚を手に入れる魔法も使ったり、
レパートリーは豊富だ。野宿でも食にはこだわりたいらしい。
昔は荒々しかったナイフさばきも、洗練され磨きがかかっている。ルドルフは感心した。やっぱり、ノーラはノーラだ。
歩き始めて二日目の朝。
大木の下で野宿していたノーラ達だったが、そこに招かれざる客が現れる。かなりの珍客といって良い。
足が短いワリにすばしっこい、旅人の物品を盗んで生活する盗賊を生業にしている種族、カゼキリ族の男がヨロヨロと近付いてきたのだ。
ノーラの顔を見るかと思えば、バタリと倒れる。
どうやら、熱で頭をやられているらしい。吐く息も熱く荒い。
しかたなく看病するノーラ。病人はほっとけない性質だ。
男は、名をダニエルと言った。普段は山で山賊をして生計を立てているらし事も正直に話す。
かなり熱に参っているらしい。狡猾な種族とは思えない。
ダニエルは腕の良い医者を探して歩いているらしく、近くの山に住むカゼキリ族は原因不明の熱病で瀕死の状態らしい。
魔法でダニエルの治療に入るノーラ。瞬く間に熱が引く。
熱病はどうやら、魔力によるものらしく、案外あっさり治った。
感謝するダニエル。村に案内するから、種族の皆を治して欲しいと頼まれる。こうして予定変更して、東の山に向かう案山子と赤い服の女性だった。


第七話「カゼキリ族の集落」


東の山を登る3人。少し傾斜が険しいため用意されていたロープを掴み、すこしずつ上に進むと、気温が下がったのか肌寒くなってくる。
山頂付近でロープから離れ、横に進んでいくと、
カゼキリ族の集落があるという目印の黄色と黒の縞模様のスカーフが木の枝に巻かれている。
しばらく歩いて、罠がしかけられているらしい場所をおっかなびっくり、言われたとおりに進むと集落についた。
人が住んでいるとは思えないほど活気がなく。出歩く人一人居ない。
夏なのに植物は枯れ、木は老木になったかのように生気を感じられない。
なんとも弱弱しい風景である。自然の力強さとは無縁。
それも、集落に蔓延した謎の奇病の影響だとダニエルは言う。
集落の中に入り、とりあえず、村長の病気を治すため魔法を唱えるノーラ。
「ヒール・ザ・ワン・オブ・ヒューマン」
魔法を唱える際、素手の場合、指で紋章を刻んでから命令呪文を唱えるのが一般的だが、杖を持っている場合は、それを省略できる。
ノーラは、威力を高めるルーンが施された杖を使い、短い命令呪文で魔法を唱えても効果が上がっているため、村長は少ないコストで病気が治る。
というわけだった。
村長から、村の状況を詳しく聞く二人。
病気の原因を突き止めなければ、また同じ現象が起きてしまうかもしれない。
魔力の無駄使いは避けたいノーラは、何か、魔力が篭ったアイテムを、人から盗みださなかったか聞く。
村長はとぼけるわけにもいかず、困った表情でしばらく考え、汗を一筋垂らし静かに前置きを語る。
それは、ある人物から依頼された盗みで、決して他言してはいけないと言われていた仕事。プロであるカゼキリ族は、口が堅いので有名だ。
だから言えないのだが、カゼキリ族の民の命がかかっているため、仕方なく言う。
「西の大陸の泉に住む精霊から、<<神の心臓>>と言われる宝玉を盗み出したのだ。
それを依頼主に渡した後、夜中に、集落でいびつな声を聞いたという情報がある。
それから数時間後、朝になる間もなくカゼキリの民が熱病で倒れだした・・・」
間違いない。魔法だ。
ノーラは、とりあえず、カゼキリの集落に結界を貼り、それから、それぞれの家に向かい、一人ずつに回復の呪文を唱える。
全てが終る頃、手持ちの魔力の結晶石も自らの魔力も底を尽き、ノーラは、ダニエルに用意された寝床に倒れこむ。
案山子のルドルフは心配そうに、ノーラの顔色を見る。
「大丈夫よ。一晩寝てれば、大気中から魔力を臓器に取込んで回復するから」
食事もとらずに、眠りに入るノーラ。
一夜が明ける。
ノーラは、カゼキリ族の料理を片っ端から平らげていく。かなりの量だが、大丈夫なのか。
ルドルフの心配も笑顔でかわし。最後の一枚。あっという間に皿に盛られた料理を食べつくす。
コレで体系が変わらないのが正に魔法使いの胃袋。と言いたいところだが魔法は関係ないらしい。
魔力の臓器は、大気中にある魔法のミストを吸収して充填されるということだ。
食べ物が必要なのは単純に体力回復のため。
体力がなければ、いくら魔法が使えても呪文を唱えられない。とのこと。
ノーラは村長の元に行き、昨日聞いた依頼主の情報を更に問いただすように聞く。
村長は、理由を聞き、仕方ないと全て話す。
理由はもちろん、カゼキリ族の命がかかっているため。ついでに、世界の破滅を救うためでもある。
ノーラとルドルフは、準備を整え、進路を再び南に戻す。
カゼキリ族への依頼をした依頼主は、南にいる。
ラドハリア領の領主ジョージの弟。魔法使い。名を、ラクリスといった。


第八話「森の都シラード」


ラドハリア城城下町を出て五日が過ぎた。
ルドルフとノーラの二人は、今、カゼキリ族の集落を出て、東の山を降り、進路を南に戻そうとしているところだ。
森の都シラードに着くには、あと一日は歩かなければならない。二人は少し急ぐ事にする。旅に少し手強い目的が出来てしまったのだ。
草原を分けて一本、道が通っている。
その道を南下していけば、シラードに着くというわけだが、さっきから二人の後を、軽々とした走りで時々止まりながらついて来る者がいる。
「・・・なんであるか」
「・・・たぶん、一緒に行きたいんでしょ」
ついてくるのは、カゼキリ族の特攻隊長、ダニエル。ノーラに一番初めに治療してもらったカゼキリ族の青年だ。二人を下まで見送るだけかと思ったら、なんだかついてきてしまった。
理由を聞くことにする二人。
ダニエルは答える。鼻の下をかきながら。
「カゼキリ族の命運がかかってる一大事に、他人であるお二人だけ立ち向かわせるなんてとんでもない。あっしも行きます!!」
なんというか、相手は神の心臓という宝玉を持った魔法使いだ。
かなりの強敵になると思うのだが。
足が何十倍速いだけの人物が、果たして足手まといにならないだろうか。
武器はナイフだけ。しかも、それは果物の皮を剥くためだけに持っているらしい。なんとも、呑気というか、緊張感が無いというか。
「ホントに連れて行くであるか?」
「しかたないでしょう、引き離せそうに無いし」
二人の後をニッコニコしながら歩くダニエル。
三人は、急ぐ。ダニエルが、急ぐ理由を聞き了承すると、
なんと、ルドルフとノーラを両肩に担ぎ、走り出したではないか。
その速さは、まさに高速。見る見るうちに景色が変わり、あっという間に目的の森にたどり着く。
森の都シラードの入り口がどこかにある。
森の中を歩き、その印を探す三人。ノーラが旅行カバンから出したノートに印の形を描き、それを覚えた二人があちこち探す。
木の幹に、妖精の粉が振られた布があるはずなのだ。ノーラは、目を凝らし慎重に辺りを見渡す。
しかし、見つからない。森の中で三時間が過ぎた。夕暮れ時か、空が薄暗くなってきた。
焦るノーラ。夜になると、妖精の都は門を閉じると聞く。
何か、魔法で印が見えなくなっているに違いないと気付く。
ノーラは、自分の両目の前に小さく紋章を空に描き、「サーチ・スコープ・ザ・シンボル・オブ・フェアリー」と呪文を唱える。
すると、霧が晴れたかのように、印が刻まれた妖精の布が姿を現す。
「あった。ルドリー、ダニー、こっちに来て」
三人は、妖精の都の門を開く。
妖精たちが、中で騒ぎ出す。
「侵入者、侵入者」
「取り押さえろー」
「きゃー食べられるー」
各々、言いたいことを早口にしゃべっているが、不思議と聞き取れる。
「皆の者、静まれい!!!」
一喝。妖精たちはムスっとしながら静まる。
奥から妖精族の長らしき妖精が現れる。白い髭を長々と生やし、お供の妖精に支えられながら、羽根で飛んできた。
妖精たちは、名乗らない。
自らの名前を、人間に教えると、その力を失ってしまうから。
それを踏まえたうえで、ノーラは名乗った。
ルドルフとダニエルもそれに続く。
長らしき妖精が尋ねる。
「この妖精の都に何の用じゃ?人間が使えるものなど無いぞ」
「普通の人間ならね」
呪文を唱えるノーラ。「シャイン・ライト」
目の前が光輝く。
眩しげに目を押さえる妖精の長。
「魔法使いか。どうりで門を見つけられたわけじゃな」
三人は、長の住む大空洞についてくるように言われる。
大空洞といっても、人が五人入れるか入れないかくらいの普通の部屋だ。
そこで、ノーラと取り引きをしても良いということだ。
これからの旅に必要なものを言い、見繕ってもらう。


第九話 「大空洞」


大空洞には、色んな魔法グッズが置かれていた。
妖精サイズのその物々しい物品たちは、妖精の長の発するキーワードで、ほのかに光ったかと思うと人間の使うサイズに変換されていく。
ノーラが欲しかったものは、対魔法使い用の強力な杖や魔法が書いてある魔道書。姿を隠すための妖精の粉の入った瓶。
それからルドルフとダニエル用に攻撃魔法を防ぐマント。
など、色々注文して、それに応じる妖精の長。
シラードの民がせっせと、作業してくれたおかげで、色々役立つものが揃った。
妖精の長は念を押す。
「決して悪用などしないようにな」
「分かってるわ。これは、悪事をくじくために使わせていただきます」
「うむ。よかろう」
長が持っていた杖をコツと地についてキーワードを言うと、ノーラとルドルフ、ダニエルは森の都から転送され、森の南側出口に出た。
「もう、まだ荷物詰め終わってないのに!!」
少し不機嫌な感じで、ノーラは旅行カバンに貰った物をしまい、
案山子のルドルフとカゼキリ族の青年ダニエルにマントを渡す。
「さぁ、ラクリスのいる南の城に行くわよ!」
マントを着た二人は、うなづいて、ルドルフは旅行カバンを持ち、
南に向かって一行は歩みを進める。

空には昼間なのに、赤い満月が出ていた・・・。
ラクリスが神の心臓を使って儀式を始めたに違いない。
時間がない。一行は急いだ。
南には、ラドハリアの領主の弟の住む、おどろおどろしい、黒い城が遠くから見える。
大地がうなり声を上げるかのごとく、轟音を発しながら揺れていた。一定の間隔をあけてゆれていた大地だったが、やがて、その感覚が狭まっていく。
「ビー・スピード・アップ・ザ・シューズ」
ノーラは、ノーラとルドルフの靴に、加速化の呪文を付与する。
カゼキリ族であるダニエルには魔法は必要なかった。
一行の進行速度は、時速にして約1000キロに一時的に変わり、
目的地まであっという間についてしまう。
途中にあった街では、高速で動く三人を目視出来たものはいない。
ただ、激しい突風を感じたものが何人かいた位だ。

そして三人は、今、黒い城の門の前にいる。
警備するものは、何故かいない。
それどころか、その黒い化け物のような建物からは、人のいる気配を感じさせない、生気のない印象をノーラに与える。

「まずいわ。城の人達が、もう、神の心臓に取込まれてる」
「いったい何が起こるであるか、ノーラ」
「あっしには、嫌な予感がするっす」
「とにかく、城の最上階まで急ぐわよ」

三人は、黒い化け物の中に、恐る恐る入っていく。
闇が中でひしめき合い、光は、その欠片も見せはしない。
闇の迷宮が広がる中、光の魔法をかけようとして失敗する。
ノーラは三人の目に暗視の魔法をかけ、それでようやく、城の中を自由に動く事が出来た。
外に比べ、中は轟音もならず、揺れもない。
まるで、そこだけ切り取られ、異世界にでもなったかのような感覚。しばらく階段を登り、着いたと思ったら、そこは最上階ではなく、黒の城の入り口。
イライラするノーラ、呪文を唱える。
「サーチ・スペル・フラッグ・オブ・ラビリンス」
しかし、呪文は跳ね返される。防御魔法だ。
このままでは、ラクリスが、神の心臓の儀式を完成させてしまう。
世界が脈打ち、心臓を持つラクリスによって支配されてしまう。
そうなれば、世界の破壊も思いのままだ。
何を企んでいるかは、ノーラには分からない。
ただ、最悪のケースを考えて、最善の一手を打つだけだ。

ノーラは、呪文を唱える。
「フライ・ウイングズ・オブ・ボディーズ」
三人は背中から魔法の羽を生やし、空を飛ぶ。
黒の城は、闇の矢を幾十にも放ち、ノーラ達を落とそうとする。
しかし、ルドルフとダニエルがマントを拡げ、魔法の闇の矢から、自身とノーラを守る。
そして、最上階。黒の城の最上部に、不適に微笑む魔法使いを見つける。


第十話「黒の城」

ラクリス・ラドハリア。
黒の城の主にして、魔法使い。宝玉「神の心臓」で世界を牛耳ろうとしている大罪人。

どんな魔法を使ってくるのか未知数なため、距離をとって様子を見るノーラ。
空を飛ぶ魔法の効果が切れ、禍々しい黒の城の最上階に足をつける。
気を抜くと黒い床から伸びる黒い手に引きずり込まれそうになる。
それをかわしながら、ノーラとルドルフ、ダニエルは、城の主を見張る。背筋に緊張が走る。

先に口を開いたのは、城の主、ラクリス。
「ようこそ、招かれざる御客人。いったいワタクシに何の用です?」
ノーラは、勢い良く人差し指をラクリスに向ける。
もう片方の手には魔法強化の杖。目を見開き杖を自分の顔の前に立て、すばやく強化呪文を発動させる。
「スイッチ・オン・ザ・ストロング・パワー・イン・ネクスト・リーディング・スペル・オブ・マジック!」
しかし、余裕の表情を見せるラクリス。
ノーラは、目の前に突き出した人差し指で魔法の紋章を描く。
続けて呪文詠唱。
「ビー・スロウリィ・ザ・マウス・オブ・マイ・フォワード・マン」
呪文は成功し、
ラクリスの口が鈍く光り、普通にはしゃべれないくらい動きが遅くなる。
しかし余裕の笑みは黒の城の主からは消えない。
ラクリスが、指を鳴らす。黒の城から無数の杖が召喚され、機械的な音声をそれぞれが発する。
ラクリスは、杖に呪文詠唱させる力を持つようだ。
杖はそれぞれ、雷を呼び出し、杖自身に落とす。帯電する杖は、ノーラにその頭を垂れ、雷をその全てが発射する。
集中し、雷の線は龍の形に合成され、龍はその長い体をうごめかせ、
避けようとするノーラの体を追尾する。
だが、ルドルフがマントを翻しガードに入る。
マントの効果で雷は消滅する。
ラクリスは拍手する。楽しい余興を見ているかのように。
その隙に、ダニエルは、その高速の足でラクリスの黒い杖達を叩き折る。

「良くやったわ、ダニー!」
ノーラは、強化した呪文を唱える。
先に魔法で新しい呪文書を開き、目にとまった呪文を唱える。
「イレイズ・カオス・オブ・ビルディング!」
呪文書から効力を打ち消す風が巻き起こり、黒い城の混沌の力を打ち消す。
これでラクリスは、魔法の杖を召喚できないはず。
ノーラは、勝利を自分自身に予言する。

ラクリスは、宝玉を掲げる。神の心臓だ。
ラクリスにかかった魔法を心臓が打ち消す。
そして、ラクリスは、呪文を唱える。
神の心臓の力を最大限に発動する禁忌を。
勝ち誇る黒の魔法使いの王。

しかし、ラクリスから、神の心臓が奪われる。
何処からともなく起こる透明の笑いがラクリスの表情を驚かせる。
妖精の粉で体を隠し、油断していたラクリスに注意深く近付き、
宝玉を奪ったのは、案山子のルドルフ。

怒るラクリス。驚くべき速さで呪文を唱える。しかし、先に唱え始めていたノーラの魔法により、ラクリスは、魔力を枯渇させられ、不発に終わる。
地に膝をつくラクリス。
ダニエルに縄で縛り上げられ、その行動を止める。
一人の魔法使いの悪しき野望はここに費えた。

「案外、あっけなく終わったわね。」
ノーラは、それでも、強化魔法の連続使用で魔力が枯渇寸前だった。
安心してへたり込む。


最終話「旅は道連れ」


ノーラ達一行は、ラクリスを近くの役所に突き出し、事情を説明して魔法封じの刑にしてもらい、牢獄に入れた。
ラクリスの首には、永久に外れない呪いを施された首輪をつけられ、もう魔法は使えない。
「ねぇ、ルドリー、これから何処行く?」
ノーラは、バテバテの笑顔で奇妙ななりをした同行者に、旅の続きをせがむ。
「あっしは、さらに南下して、楽園と言われるビーチにいってみたいっす」
ダニエルが提案する。
「そうであるな、楽しげな所は全部見て回りたいである。」
ルドルフが賛同する。
「じゃあ、宿で休んだら、更に南に行くわよ♪」
ノーラに肩を貸しルドルフは歩く。
ダニエルは、ノーラの旅行カバンを持つ係り。
とりあえず、さっき高速で通過した町で宿を探す事に。

神様の心臓は、気が付けばルドルフの藁の体の中に入り込み、取り出せなくなってしまった。
脈打つ心臓。
案山子であったルドルフの体が徐々に変化し始めるのだが、
この時は、まだ知る由もなく。

案山子とノーラ、新たに加わったダニエルの一行の旅は、
進路を楽園にして、まだまだ続く。

楽しい旅行は、生きてる限り終わらないのかもしれない。
「まだまだ終わらないわよ!」
ノーラの豪快な寝言に、笑うルドルフ。
「そうであるな。」
窓から月明かりが射す夜の静寂に身を委ね、世界に思いを馳せる。
この旅で得られる奇跡は、そう遠くないかもしれない。


終わり




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